2022年から2023年へ

いささか遅蒔きながら。謹賀新年。
事務局長の田丸健三郎さんとの約束もあるし、この機会に昨年の協議会活動の振り返りと、今年の抱負というか課題を纏めておこうと思う。

2022年の振り返り

特別講演での諸橋漢和をめぐる講演

毎年の恒例となっている理事会・総会の折の特別講演。今回は、写研の杏橋達麿(OB)さん、そして、大修館書店の池澤正晃さん(OB)と山口隆志さん。山口さんとは面識があったが、杏橋さんと池澤さんは初対面。委細は以前のブログでも触れたので割愛するが、日本の出版印刷史の上でも、文字情報技術の流れの中でも、まさに時代を画した記念碑的出版物について、内容面技術面双方からの貴重なお話をうかがえたことは、協議会の若いメンバーにとっても、得がたい経験だったと思う。

浦山毅さんの講演

浦山さんの講演もまた記憶に残るものだった。
まあ、個人的には、ぼくの「ユニコード戦記」(東京電機大学出版局)と「EPUB戦記」(慶應義塾大学出版会)の編集者だったこともあり、いささか手前味噌とはなるが、安岡さんや三上さんの著書や「インターネット時代の文字コード」(bit最後の別冊)も含め、浦山さんがいなければ、日本の文字情報技術に係わる記録が出版物として残されることもなかっただろう。
浦山さんの講演が契機となって、今は新潟の開志専門職大学で副学長を務めておられる協議会元会長で現在も理事を務めてくださっている三上喜貴さんを含め、三人で(おっと、同大学の教授で、前SC2国際議長の田代秀一さんも含めて四人で)新潟での清談の機会を得たことも嬉しかった。

全国地域情報化推進協会(APPLIC)主催セミナー

APPLIC主催のセミナーに招かれて、事務局長の田丸健三郎さん、理事の袴田博之さん、同じく理事の田原恭二さんが講演をしてくれた。
[https://moji.or.jp/seminar/]
このような機会を与えてくださったAPPLICの関係者の方々には感謝の思いしかないのだが、望外の喜びは、このセミナーを契機として複数の組織が協議会に参加してくださったこと。今後も、文字情報技術と協議会活動についての競技化以外での衆知活動はより積極的に行っていかなければならない、と肝に銘じた次第。

フォントのメインテナンス体制

凸版印刷の田原恭二さんとフォントワークスの津田昭さんが中心となって、MJ明朝体のメインテナンス体制についての詳細な検討をしてくださった。技術的な裏付けと、作業手数の規模がおおむね把握できたことで、今後の事業計画への見通しが格段とよくなった。現場でビジネスとして係わっている専門家を擁する協議会の強みというかありがたみを改めて感じた。

文字情報基盤委員会の正式発足とUCS水平拡張のためのレビュー

2020年に独立行政法人情報処理推進機構との信託譲渡契約に基づき、文字情報基盤整備事業の成果物全般についての権利と義務を引き継いだことをうけて準備をすすめてきた、委員会が正式に発足した。関係府省庁の担当者や協議会外の専門家もオブザーバーとして招き、公開性と公共性にも配慮しながら審議を進めていきたいと考えている。
この委員会としての最初の大仕事が、UCSの符号位置に対応するすべてのMJ文字名を典拠として追加する提案。きっかけは、IRGのアクティヴメンバーの一人であるHenry Chenさんからの、MJ文字図形名とUCS符号位置の対応関係についての複数のコメントだった。この件の経緯についてはこのブログでも何度か触れている。
2022年の大きな到達点は、文字情報基盤委員会のメンバーによる内部レビューが終了したこと。このことで、修正必要個所(約40個所)の規模感が把握でき、今後の情報処理学会情報規格調査会SC2専門委員会と共同で主宰する国内レビューと、ISO/IEC JTC1/SC2への正式な提案へのかなり明確な見通しがたった。

2023年に向けて

以下、2022年の成果を踏まえてのランダムなToDoリスト。

UCS水平拡張のためのパブリックレビューの実施

情報処理学会情報規格調査会SC2専門委員会と共同で実施することになっている。ユニコードコンソーシアムは、UCSに対して提案を提出する前でも、積極的にパブリックレビューを実施し、広くコメントを求めているが、日本から国際規格への提案を行う際に、事前のパブリックレビューを行ったことは寡聞にして聞いたことがない。結構画期的なことだと思っている。

APLICと協働でのデジタル庁に対する文字情報技術に関する提言

デジタル庁では、さまざまな面から、自治体のIT化に向けたガイドラインなどを策定してくれている。文字情報基盤が数少ない民間管理の情報としてベースレジストリに採用されていることもあり、協議会としても、その動向に無関心というわけにもいかない。
手前木曽ながら、協議会には、文字情報技術についての、真の専門家がそろっているので、細かなことも含め、いろいろと気になることが出てくる。これらのことがらを取りまとめて、APLICさんとも協力して、提言として提出する準備をすすめている。

文字情報基盤準拠フォントの確保

上記でも触れたが、デジタル庁の自治体IT化への指針では、MJ明朝体フォントの使用が前提となっていると仄聞している。
しかし、IPA時代の関係者の考えは、何が何でもMJ明朝体フォントでなければならない、というものではなかった。むしろ、事業の性格上、一つだけは無償で利用できる明朝体フォントは必須だが、それが民業を圧迫することなく、願わくばゴシック体などの別書体フォントも含め、複数の文字情報基盤準拠書体が開発・市販されることを期待して、具体的な使用許諾契約の作成や、さまざまな施策を行ってきた。
正直なところ、IPAとの信託譲渡契約で、MJ明朝体フォントについても、その権利と責任を引き継いではみたものの、その保守には、それなりの予算投入が必要であり、まだまだ発足まもなく、予算規模も限られている協議会としては、保守費用の捻出が頭痛の種。
一方で、協議会会員のなかには、開発中のものも含め、文字情報基盤に準拠したフォントを持っておられる会員が複数在るとも仄聞している。
このような会員会社が保有されている文字情報基盤準拠フォントに対して、協議会としてのおおやけに承認する制度の検討も焦眉の急だと思われる。
運営委員会で話し合った結果、文字の知識部会(田原恭二主査)が中心となり、文字技術支援部会の協力も得て、この認証制度に特化したタスクフォースを結成して、準備作業を加速することにしている。

文字情報技術チュートリアルビデオ

これは、昨年運営委員会でアイディアを提案して、大方の賛同は得たものの、ぼく自身、動画での情報提供については、ずぶの素人なものだから、具体的に手が付けられないままで、年を越してしまったもの。
個人的には、ぼくも齢70を越えて、自分が手がけてきたことについては、そろそろラップアップというか手仕舞いのフェイズに入りたいなと思っている。で、協議会会長としての最後のお務めは、ぼく自身(と同世代の仲間が)先達から受け継いできたことどもを次の、そして、次の次の世代に、きちんと申し送りすることかな、などと。チュートリアルビデオの開発の背後のは、このような思いもある。
協議会は、国立国語研究所の高田智和さん、京都大学の安岡孝一さんという、文字情報技術に関してはまさに日本の第一人者、第二人者(ま、どっちが上と言うこともないのだけれど)を擁している。このお二人に、協議会副会長で日本タイポグラフィ学会会長の山本太郎さん(アドビ)を加えれば、フォントや組版周りまでカバーした鉄壁の布陣となる。このお三方に不肖小林(ユニコードに関してはね)が加わって、編集委員会みたいなものを立ち上げ、技術面についてと具体的な事柄に関しては適宜若手会員の協力を仰ぐような形で、進めて行ければいいなあ、と思っている。
当面は、コンテンツ面を、高田さん、安岡さん、山本さん、小林が、技術面を、下川さん(イースト)、水野さん(イワタ)が、全体の進行管理を宮田さん(大日本印刷)が担当して、いくつかのパイロットビデオを制作してみようと話し合っている。
仮のタイトルが「村田真にも分かる文字情報技術のすべて」(笑)

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