長尾真先生(京都大学元総長、国会図書館元館長)が永眠された。追悼とし
て長尾先生のEPUBへの知られざる貢献を述べる。
今日こそどの国内出版社もEPUBを用いているが2010年夏頃はこぞって反対していた。JEPAの下川さん、三瓶さん、私は、まさに四面楚歌を実感していた。そんな中で、いち早く支援の手を差し伸べてくれたのは国会図書館である。この支援のおかげで、ソウルでの日中韓文書処理会議に参加し、EPUB国際化について話すことができた。これがEPUBの札幌会議や台北会議へと繋がっていき、多くの方のご協力を得てEPUB国際化は成功した。ご支援いただく前に、私から長尾館長(当時)にEPUBについてご説明した。
学部が違うので学生時代にお目にかかったことはないが、もちろんお名前はその頃から存じ上げている。かつての不真面目な学生にとって、先生の前で話すのは難行苦行に等しい。幸い、暖かいお言葉とご支援ををいただくことができた。
その後、文字情報技術促進協議会の年次特別講演会で、長尾先生と阿辻先生のご講演の後で私が短い話をした。京都大学が誇るお二人の後というのは大変なプレッシャーであった。幸い、大過なく終えることができたのは、私にとって一生の思い出である。
先生の自伝を拝見すると、機械翻訳国際連盟の初代会長を務めたことが、ごく簡単そうにわずか半ページで記述されている。簡単なわけはもちろんなく、普通の人だったら人生のハイライトになるほどの難事だろう。先生にはほかに書くべきことが多々あったし、苦労話を書くことを良しとされなかったのであろう。
先生有難うございます。安らかにお眠りください。
慶應義塾大学政策・メディア研究科特任教授
村田 真